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第202話 聴いていたい
「あ…はい。自分の部屋です」
少し上擦った声でなんとか返す。
『そうか』
耳がやはりゾクッとして祐羽はピクッと体を震わせた。
「…」
『…』
ここで再び沈黙が訪れそうになり、このままでは駄目だと祐羽は意を決して自分から声をかけた。
「く、…九条さんは、まだ、福岡ですか?」
当たり障りのない質問だが、他に祐羽から話す事はなく質問という形なら九条からの返事も聞けるだろう。
そして早くこの電話を終わらせたい。
祐羽から用事は無いし、早く問題解決の方法を調べたい。
何よりこの声を聞いていたら、またさっきの訳の分からない震える感覚が甦りそうで怖かったからだ。
すると機械越しの向こうで気のせいか、一瞬だが九条が息をとめた様な気がした。
「あぁ、まだ福岡だ」
僅かの間があり、祐羽の耳に艶やかな声が吹き込まれる。
話し掛けられる度に耳が擽ったい。
九条さんの声、僕好きなのかも…。
心地よい声は何度でも聴いていたくなる。
何度か会って直接声も聞いたし、いい声をしているのは知っていた。
それが今、顔が見えない分声が九条の全てで、そこからしか感情を読み取れない。
そうなると自然と『聴く』事に集中力が増す。
その結果、九条の声がもの凄く魅力的な事に気がついた。
「そうなんですね…」
「明日朝イチに戻る予定だ」
この声をまだ聴いていたい。
もし九条の声を直接聴いたら今迄とまた違って聞こえるのだろうか?
何故だろうか、自然とそんな事を思ってしまった。
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