翌朝。 スマホのアラームに起こされて、少し眠い目を擦りながら祐羽は目を覚ました。 昨夜の九条との会話で興奮していたのか、目を閉じてもなかなか眠りにつけないでいた。 九条との会話を反芻しつつ、その時の表情を勝手に想像するという遊びに嵌まってしまったからだ。 脳が勝手に次から次へと九条の顔を記憶から呼び起こすものだから、後半には魘されるほどに九条まみれになってしまった。 その結果、疲れ果てて眠りに誘われたという可笑しな入眠となった。 起きてしまえばなんて事はないが、脳がちょっとだけ疲れているのはそのせいだ。 そんな僅かな脳の疲れも思い出した九条の声を脳内再生してしまえば、何故か癒されるという現象を起こしていた。 「声が良かったからって、僕って単純かも…」 身支度を整えながら、そう溢した。 「おはよう。あれ？お父さんは？」 学校へ行く支度を終えてダイニングへ顔を出すと母・香織が朝食の準備を整えたところだった。 そこにはいつも居るはずの父・亮介の姿がない。 不思議に思い訊いてみる。 「お父さんならもう出たわよ」 「えっ、今日は早いんだね」 驚く祐羽に椅子へ座るよう勧めながら、香織も椅子へと座った。 「昨日言ってた会社との契約の為の最終確認をするみたいよ。今日の午後から相手先と会うんですって」 「…そうなんだ」 九条の子会社との契約。 亮介の会社からすると大きな契約となり、社運をかけているといってもいいほどらしい。 そんな仕事を精一杯頑張っているが、これが九条の気分次第で壊される事は避けたい。 それを考えると、亮介に今の祐羽の置かれている立場を話すのは…。 「はぁっ…。話せないよ」 祐羽は香織に聞こえないようにボソッと溢した。