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第207話 会えるといいな
いつもより混んでいる電車に飛び乗り、案の定座れない状態で揺られる。
いつもの駅に降り立つと、足早に改札を抜けた。
待ち合わせしている友人とは時間を過ぎたら先に行くという約束をしていたので、もう相手は居ない。
祐羽は、そのままひとり学校へ向かった。
その間も頭の中を巡るのは九条の事で、授業が始まってもやっぱりその事でいっぱいだった。
苦手な数学の授業では、ますます九条との関係に頭がいっぱいになる。
「…」
なんとなくノートの端に似顔絵を描いてみる。
丸い顔に髪の毛をサラサラ、ちょっとつり上がった眉毛にクルッと目を描いた。
ゆるキャラの様になり祐羽の実力では全く本人には似ても似つかない。
それでも九条だと思うと勝手に口元が緩んだ。
指先で描いた九条の頭を撫でながら、顔を思い浮かべる。
これまでの九条との関係はどうだっただろう。
そもそもの始まりは、自分の不注意でスマホを落とした事だった。
見知らぬ男に無理強いされそうになったところに九条が現れたのだ。
助けてもらって病院にも運んでくれて。
次に会ったのも自分の危機の場面で、助けに来てくれたのだ。
偶然だろうと思う。
けれど二度も危機から救ってくれたのは、間違いなく九条だ。
それから逆に、助けてくれたはずの九条から無理矢理体を犯されて絶望を味わった。
あの時は本当にショックだったな…。
その出来事を思い出して胸がズキッと少しだけ痛む。
九条は自分の気持ちを一切無視して無理矢理事に及んだのだから、やった事は金融屋の男達と代わりない。
初めての体験が痛くて怖くて。
でも次の日から九条が少し優しかった…。
あんなに悔しくて憎くて怖くて、関わりたくないと思っていたのに。
あれから九条さん、ずっと優しかったんだよね…。
無理難題を突きつけて来たのは事実。
けれど譲歩して、至れり尽くせりで優しくしてくれたのも事実で。
本当のところ何を思って自分に関わっているのか、そこが知りたい。
それさえハッキリと分かれば、父親の仕事の事や他の無理難題な問題も解決出来るのではないだろうか?
今日、九条さんに会えるといいんだけど…。
祐羽はそう思いながら、頬杖をついて黒板をぼんやりと見つめた。
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