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第210話 シミュレーション

そんな訳で、祐羽の頭の中は益々放課後へと向けられていた。 お陰で午後からの授業もいつも以上に理解出来ず、かといって今日はやる気は別方向。 九条の事ばかりで、勉強に対しては不真面目であった。 部活終わりに九条と会うことになって、いざ何を話すか纏めておいた方がいいだろうと考えに至った。 その内容を考えていたら、あっという間に部活の時間になっていた。 準備が整い軽く運動をこなして、体育館では今レギュラーと控えが紅白戦をしている。 祐羽は相変わらず基礎練習で、ひたすら壁とボールがお友達であった。 下手な祐羽はドリブル練習が多いが、それが今は有難い。 放課後、九条と会った時の流れをシミュレーションできるからだ。 中瀬が迎えに来たら車内で九条の今日のご機嫌を聞く。 それに合わせて、話しの仕方や内容を決めよう。 ご機嫌ナナメなら今日はやめて、声だけ堪能する予定だ。 ダムダムとボールをつきながら、ひとり壁に向かって(いい考えかも。頭冴えてるんじゃない?僕)と、ウンウンと首肯く。 一応、話しの内容は決めた。 まず落ち着いて挨拶を交わして様子を伺って、大丈夫そうなら色々と訊こうと思っている。 ひとつ目は、九条がホームページで見た会社の社長が本当かどうか?ということ。 ふたつ目は、父親の会社と契約したのは自分と関係があるからという理由からなのか。 みっつ目は、ヤクザなのか…これは確実だとは思うが詳しくは知らないし、本人の口から聞いて(やっぱり)と納得したいのもある。 その時の九条の態度も見たい。 これに関しては少しの勇気が必要かもしれない…。 そして最後が1番難関な質問になる。 口に出すのには抵抗がある。 「ど、どうして九条さんは、ぼ…、僕、いっ言えないぃ~…無理ぃ」 口に出す練習をしてみても恥ずかしくて駄目だ。 人生においてこんなセリフを口にした事がないからだ。 放課後の体育館の隅でドリブル練習しながら、ひとり百面相。 「あぁっ、ボール!!」 案の定ただでさえ下手なのに、心乱れた為ボールを蹴り飛ばして追いかける羽目に。 そんな祐羽は監督に、ドリブル練習を100回追加させられたのだった。 ※限定小説の新たなお知らせはアトリエブログをご覧ください。

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