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第220話 表情
今着ているのは、何の変哲もない学ランなのだ。
おまけに部活終わりのヨレヨレなので、余計に見窄らしい。
「行くぞ」
着いてこいと言わんばかりに歩き出した九条の背中を慌てて追いかけようとすると、横から眞山の手が現れた。
それから持っていた鞄を取り上げられ、その後ろに控えていた中瀬に預けられる。
中瀬はこっそりと口パクで『バーカ』と言ってきた。
どうやら鞄は要らないというか、持って行くなということらしい。
改めて思うと確かにこの店には不要というか、この鞄を持って入る勇気は無い。
ドアが開かれているが、その入る直前で振り返り自分を待っている九条。
表情から(早く来い)と言っているのは分かる。
分かってはいるのだが、どうにもこうにも体が言うことをきかないのだ。
「う…、このお店に入るの?」
その店の豪華な造りに、尻込みして思わず泣き言を漏らし立ち尽くす。
けれど九条だけでなく組員や店員の全員から注目を浴びれば泣き言をいつまでも吐いている訳にはいかなかった。
「お願いですから早く社長の横へ行ってください」
「あ、はい…」
隣から眞山に促されて、漸く一歩踏み出す。
視線を一身に浴びる恥ずかしさに居たたまれず、思わず地面を見ながら進む。
真っ直ぐ進めば九条に当たる。
そうして進むと、九条の磨き抜かれた革靴の爪先が見えて、祐羽は漸く顔をゆっくりと上げた。
「っ!?」
一瞬僅かに九条の目元が緩んだのは気のせいだろうか?
思わず目を見開いて顔を見返した。
けれど九条はいつもの無表情で踵を返すと、店内へとドアを潜った。
九条さん今、絶対に笑ってた…!
先程までの変な緊張感が少し解れていく。
声が聴きたいと思ったのと同じで、今度は顔をしっかりと見たい、細かい表情を見たい。
「よしっ。頑張るぞ」
そう小さく呟き九条の背中を追いかけた。
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