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第236話 不機嫌の理由

表も裏家業でも九条はイライラピリピリすることはあっても、ここまで不機嫌になることは今迄なかった。 今、出張で纏めた相手会社との大きな締結の関係で、莫大な書類が押し寄せている。 その関係役員や弁護士などとの会議続きで多忙を極めていたからだ。 それだけで済めば良いが、この大変な時でも社長だけでなく会長との兼任は流石の九条といえど体力と気力が大幅に削がれていた。 そんな日々が続けば疲労困憊とはいかなくとも、九条も人間だ。 いくら万能に近い男と思っていても、流石に無理があったのだろう。 「…済んだぞ。次」 「ありがとうございます。次はこちらをお願いします」 事務的にいつも以上に無表情を湛えて書類に目を通していく。 そんな九条を見つめながら眞山は内心どうしたものかと頭を悩ませていた。 そして先日の事をふと思い出す。 …そういえば…。 出張の時も機嫌は少し悪かったが、何故か最終日には恐ろしい程の切れ者ぶりを発揮して、海外の商談を纏めてしまった。 そうして直々に会いにいったのは、やはり祐羽だった。 オーダースーツをプレゼントして、行きつけの高級レストランで食事。 不可抗力とはいえ、まさかの祐羽の母親との対面。 これは、祐羽を他の人間に抱かせたくないという九条の思いがあったのは、容易に想像できた。 長い間九条の側に使えてきたが、今までそんな姿を1度たりとも見たことがなかった。 プレゼントといっても組繋がりや仕事関係の事務的な物ばかりで、いつも「お前に任せる」とだけ言われていた。 しかし、祐羽に関してだけはオーダーもレストランも全て九条から直々の細かい指示があった。 「…パン」 思わずそう溢してしまい口を慌てて閉じる。 初めて連れ帰った翌朝。 祐羽が食べていたパンもそうだった…と眞山は不意に思い出した。

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