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第239話 デートか否か

デート…、デートと言ったか? 九条の口から初めて聞く単語に、眞山は言葉が一切出なかった。 今まで側で長年使えてきた。 その間に何人もの女が九条に抱かれてきたが、大抵1度きりだった。 もちろん重宝された女もいたには居たが、それでも体だけの恋人といわれる関係ではなかったし、半年もすれば己の立場を弁えずでしゃばり捨てられていた。 さすがに学生時代の女関係までは把握していないが、とにかく九条に恋人は居なかったし、恋している青年という雰囲気も感じた事はなかった。 「デート…ですか…」 思わず口からポツリと漏れてしまった。 それほどに驚いた。 祐羽を家に連れ帰り、九条自らが世話を焼いていた時以来の驚きだ。 また九条が『デート』というワードを使うとは…。 九条なら小馬鹿にしそうな単語のひとつだが、それを使ったのにも驚きが大きかった。 デートか…。 ここで言うデートというのは、特別に目をかけて囲っている祐羽が相手で間違いないだろう。 「何だ?」 「いえ…」 「俺でもデートくらいする」 そう言い放つと、九条がフッと表情を緩めた。 九条の空気が明らかに緩み車内になんともいえない雰囲気を作り出す。 眞山だけでなく運転手をしている堺も驚いた様だが、その感情を懸命に隠しているのが分かる。 デートといえば先日のそれもデートに該当するとは思うが、ことばにするのは特別に感じてしまう。 どこまで九条が本気なのか? 物珍しいだけにしては入れ込みすぎではないだろうか。 その証拠に、いつの間にか九条は祐羽と連絡先を交換しており、直接やり取りをする様になっていた。 その為、中瀬経由という情報源が絶たれてしまい把握が難しい。 「いえ、初めてそんな表現をなさったので。正直、驚きました」 素直に白状すると、面白そうにククッと笑われてしまった。 もしかして、相手は月ヶ瀬くんではなく組関係の…? 旭狼会で俺の知らない何か動きがあって、社長だけが把握しているのか? それの隠語という可能性も十分あり得る。 デートというのも皮肉を込めて社長が使っているのかもしれない。 他に目的があっての事なら、自分も動かなくてはならない。 詳細を聞き次第、対応を検討せねば…。 眞山はルームミラー越しに、表情の乏しい九条のどこか楽しそうな顔を真剣に見つめた。

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