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第276話 楽しむ気持ち

その自信と目から伝わる包容力は絶大で、胸がギューッと締め付けられる。 きっと話せば九条のことだから解決してくれそうだ。 だからといって原因が九条の事だとは言えるはずもない。 せっかく楽しみにしてたイルカショーだもん。 もうさっきの人の事は考えないようにしよう…。 楽しまなきゃ損だし、僕がこんなだったら九条さんも楽しくないよね。 直ぐには落ち込んだ気持ちは払拭出来ないが、もう考えないようにしようと決める。 きっとあの女の子も今頃は自分のことなど忘れて、イルカショーを楽しんでいるに違いないのだから。 僕も高校生になったんだ。 これから体だけじゃなくて気持ちも強くしていかなくちゃ。 祐羽は溜め息を溢さない様に唇を結んだ。 「…そう、します。悩みとかもなるべく前向きに考える様にします。…ありがとうございます、九条さん」 隣の九条へ今1番出せる元気な声と笑顔で礼をすると、目だけで返事をくれた。 たったそれだけで祐羽の思いが充分伝わった事が分かり嬉しい気持ちが湧いてきた。 楽しもう。この時間がもったいないもん。 そんなタイミングを見計らったかの様にプールでは飼育員の合図と共に勢いよくイルカが2頭水中を飛び出して来た所だった。 「あっ、出てきた!」 会場の歓声に祐羽の声も被る。 イルカが2頭飼育員の指示で細かな芸を見せたり、ダイナミックにジャンプを繰り広げる。 音とライティングで彩られた会場は、熱気で溢れていた。 暫く見ているうちに、あれほど気にしていた祐羽もすっかり世界観に引き込まれて心の底からこのショーを楽しめていた。 九条の言葉かけがあったからこそなのかもしれない。 「凄いですね!」 「ガキの時以来だ」 興奮のままに九条へ同意を求めると、楽しさからなのか横顔が少し緩んで見える。 そう見えるのは、もしかしたら自分がそうであってほしいという思い込みからかもしれないが…。

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