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第277話 おっちょこちょい

当たり前だけど九条さんも子どもの時があったんだよね。 どんな感じだったのかな? そんないつもと違う九条を見れたのも今日の思い出のひとつになったな~と祐羽は嬉しさから小さく笑った。 こうして写真に歓声にと存分に楽しんだイルカショーが拍手と共に終わりを告げた。 イルカがプールを後にすると、観客も次々と会場を出ていく。 同じ様に祐羽と九条も揃って立ち上がり、出口のある方へと階段を上る列へと加わった。 「イルカ可愛いかったですね!わっ!?」 歩き出しつつ少し振り返った拍子に、足を(つまず)かせてしまい転びそうになる。 その腕を九条が咄嗟に掴み力強く引き寄せてくれ祐羽はなんとか難を逃れた。 「び、びっくりした~」 転倒を回避出来て安堵の祐羽だが、すっぽりと九条に包まれている事に気がついて慌てて両手でその逞しい胸板を押し返した。 「あのっ、ありがとうございます!助かりました!」 「大丈夫か?」 「はいっ、お陰様で全然大丈夫です!!」 けれど祐羽の力など、蚊が止まったかの様子で九条はびくともせずにそのまま抱き込んでいる。 離してほしいのになぁ~と思うが助けて貰った相手にそう何度も抵抗なんて出来ない。 「それならいいが、足元に気をつけろ」 少し呆れた声音に聞こえるのは、自分が如何に九条の前でおっちょこちょいをしてきたかを物語っている様で情けない。 またか…と思われていたら嫌だな…。 「はい…気をつけます。ありがとうございました」 転倒しそうになり周囲からの視線を一身に浴び、そして九条に助けられて二重の恥ずかしさに顔がまた赤くなる。 自分は今日何度顔を赤くすれば気が済むのだろうかと、祐羽は火照った頬に両手を当てる。 「しっかり立て」 「ぅわっ?!」 思わず口から驚きの声が出てしまう。 まるで生まれたての子鹿を扱うかの様に、階段に改めて立たされる。 それも腰を持ってヒョイッと丁寧に出口へと向けられ、再び祐羽は近くの客から注目浴びる羽目になった。

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