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第286話 目的

「ねぇ~、私足が疲れたからコレ買って来てくれない?」 祐羽の姿が見えなくなると、笑瑠は彼氏の腕に手を絡めて上目遣いでそう訴えた。 「え~俺だけで?」 彼氏は長いレジの列を見てウンザリ顔だ。 ひとりで待つのは退屈だろう。 「だってぇ…見てよ。ヒールで、ほらね。痛そうでしょ?おねがぁ~い。ね?」 そう言って大して痛くもない足を見せた。 「ん~この後、一緒に行きたいところあったのになぁ~。ホテル…無理になっちゃうかも」 彼氏に困り顔をして、それからいたずらっ子の笑みを見せる。 そのあざとい表情の変化と、この後の魅惑的なお楽しみを考えて天秤にかけると当然答えは是、だった。 「向こうで待ってるね!もし居なかったとしてもトイレだから座って待っててね」 こうして彼氏が疑いもなく列へと向かうと、笑瑠は本来の目的地へと足を向けた。 その足は先程まで訴えていた痛みをまったく感じさせない軽やかなものだった。 チャンス、チャンス~。 思わず鼻歌も飛び出しそうになりながら、ウフフッと口元が緩む。 にんまり笑ってしまうのを抑えて笑瑠は土産物店から通路へと出ると、彼氏の姿を確認する。 たくさんの客が並ぶので、列の結構後ろに居る。 おまけに列の向きが反対なので、笑瑠の姿は視界に入っていないだろう。 たとえ笑瑠を探したとしても、そちらには居ない。 笑瑠が向かう先は、さっき座って待つと言った方向とは反対だ。 買い物が終わって待ち合わせ場所のベンチに笑瑠が居なくても彼氏は素直に座って待つだろう。 ある目的があり席を外す自分を探されては困るのだ。

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