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第304話 こじつけ

「このカゴの中から、俺の部下への土産物は全て返す」 「えぇっ!?そんな、…っ!」 「それが嫌なら黙って従え」 横暴な物言いに、祐羽は眉をキュッと寄せて九条を見つめた。 自分が感謝の気持ちで買おうと決めた物に、九条がここまで言ってくるのは違うと思う。 それに、九条が払う意味が分からない。 「あの…これは僕が買うと決めたお土産です。お世話になった人とか、家族とか。だから、そのっ…九条さんが出すのは違うと思うんです」 ちょっと反抗しすぎかと思いながらも、ここは引けない。 強い気持ちで意見を出すと、九条はじっくり耳を傾けてくれた後で、今度は自分の番だとばかりに口を開いた。 「眞山、中瀬、他のヤツらは俺も普段世話をかけている。そのチケット譲ってくれたヤツのお陰で今日はここに来ることが出来た」 まぁ確かに、そうですけど。 「お前の部活仲間には俺の為に時間を制限している」 そ、そうですよ! お陰で練習時間とか、やりくり大変そうだもん!!…って、そんなこと恐ろしくて今更言えないけど。 「そしてお前の両親には協力して貰っているからな」 協力というか、お母さん騙されてるもんね。 九条さんが実はヤクザだなんて知ったら…どうなるんだろう…。 「だから俺が金を出すことに何の問題もない」 九条がきっぱりと言いきり、祐羽は(こじつけだ!)と思った。 どうしてもお金を払うと聞かない九条に、何とか説得を試みようとする。 せめて、少しでも支払いたい。 「分かりました…でも、僕も半分出します」 「しつこい」 「で、でもっ、あのっ」 「お前は俺に金が無いとでも思ってるのか?」 「!!」 ジロッと睨まれてビシッと硬直してしまう。 殺気などは感じないが、人を黙らせるだけのオーラは纏っている。 前ほど怖くはない。 怖くはないが逆らえる程に、九条は優しい顔はしていなかった。

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