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第306話 お礼
何かと驚き慌てて見上げようとするも、その物体に視界が覆われてはっきりと分からない。
思わず手で掴むとモフッと柔らかな感触に覚えがあった。
そして手元まで下ろすとその正体が分かった。
「えっ?!」
それはさっき土産物を買っていて気に入ったものの一度諦めて棚に戻したシャチのぬいぐるみだった。
黒と白のボディに黒く丸いクリンとした目が自分を見つめていた。
か、可愛い~!!
「九条さんっ、これ…」
九条が買ってくれた事に気づき、嬉しさで興奮気味に祐羽は目の前に立つ九条を見上げた。
購入した土産物の入った袋を手に祐羽を見下ろしている九条は、ほんの僅かだが口元を緩めた。
「今日誘ってくれたからな。俺からお前への礼だ」
「ありがとうございます…!可愛いです!!」
礼を伝えると自然と笑顔が溢れる。
撫でて感触を楽しんでから、ぎゅっと抱き締めて頬擦りしてみる。
フワフワしていて気持ちがいい。
ぬいぐるみの顔を見て今度はヒレを持ってパタパタさせてみたり。
そうして一通り遊ぶと、もう1度祐羽は九条に礼を述べた。
「本当にありがとうございます!」
九条はフッと口元に僅かに笑みを浮かべることで素っ気なく返すと、土産物の袋を持っている手をポケットに突っ込んだ。
そういえば九条さんにはお土産も全部買って貰ってるのに、ぬいぐるみまで…。
「あっ。僕やっぱり少しだけでもお金払います」
さすがに1銭も払っていないのでは心苦しいと思い祐羽は財布を取り出そうとした。
「必要ない」
けれど九条に有無を言わせない様子で強く拒まれ、祐羽は動きを止めた。
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