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第307話 閃き
「でも」
「でも、何だ」
先程まで緩んでいた九条の口元は引き締められ、祐羽は大きな手にガッチリと頭を鷲掴みにされた。
「っ!?」
「お前が払う必要は一切ない」
目をスッと細めて命令口調で言われては、それ以上の抵抗は無理に等しい。
例え今、お金を出したとしても九条は受け取ってはくれないはずだ。
けれど、はいそうですかと素直に納得しきれない。
「分かったな?」
「……でも」
お土産も含めて全額出して貰っているのに、自分が九条へ出したのはコーヒー代だけだ。
眉を寄せて困っていると、頭にあった手が離れていく。
「それとも俺からの礼は要らなかったか?…もしそうならソイツは捨てろ」
九条はそう言いながら顔を背けてしまった。
この位置から見上げても九条がどんな顔をしているのか見えず、自分のことばが相手に対して傷つけてしまったのではないかと不安に駆られる。
「そんな…!」
要らない訳がない。
もの凄く心から嬉しかった。
嬉しく思う気持ちは大きいけれど、同時に九条負担で買って貰った事が心苦しいだけだ。
「く、九条さん…!ぬいぐるみ買ってくださってありがとうございます。本当に嬉しいです!」
「…」
すがる気持ちで訴えたのが良かったのか、九条がこちらを向いてくれて、その事にホッとする。
その顔は祐羽が次に何を言うのか待っている顔だ。
しつこく同じ事を言うと怒られるかもしれないけれど、モヤモヤするこの思いは伝えたい。
「ただ、お土産代を出して貰ったし僕にお土産まで買って貰ってしまって心苦しくて…」
九条さんは自分のお土産買ってないのに…。
って、そうだ!!
「あのっ、九条さん!!」
いいことを思いついた!と、祐羽は立ち上がると九条に訴えた。
「ちょっとここに座って待ってて下さい!」
そう言ってシャチを抱えたまま祐羽は小走りでその場を離れた。
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