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第312話 離して
九条さん、いつも急なんだけど!
祐羽は困惑と焦りを内心で九条にぶつけた。
これまでも九条の予想だにしない行動に何度も驚かされては来た。
とはいえ今回は本当に前振りもなくいきなり抱き締められて理解出来ないし、おまけに混乱と恥ずかしさとで脳内はショート寸前だ。
本当に止めてほしいんだけど。
それにしても九条さん、いきなりどうしたのかな?
脳内をグルグルと疑問が渦巻く。
逆らうのは得策ではないと仕方なしに大人しく体を預けつつも九条の次の動きに注意を払う。
この姿勢だと視界が遮られて九条の顔どころか、周囲の様子も分からない。
ちょっと何とか様子だけでも確認したくてモゾモゾするも、背中を優しくトントンされてしまい再び大人しくした。
ただ救いは、割って入っているシャチのぬいぐるみのお陰で、自分と九条の間に空間がある事くらいだ。
胸元へ押しつけられていたら今頃もっと駄目になっていた自信がある。
九条さんのあのいい匂い、まともに嗅いだら不味いんだよね。
いつまでも嗅いでいたくなっちゃうんだ。
あ~それよりも、早く離してほしいんだけど…まだかなぁ?
もういい加減に離して、九条さん!
なんて思ったのがバレたのか、九条が静かに息を吐き出した。
「フゥ…」
「!?」
思わずビクッとしたが、特に九条が動く様子は無い。
自分の『早く離して』という思いが漏れてしまったのかと焦り、とにかく怒られなくて良かった。と、呑気に脱力したのが合図だったかの様に、背中に回されていた九条の手が肩へとゆっくり移動した。
◆◆◆
Twitterにてフォロワー様先行公開の番外編『スタイリスト中瀬の苦悩』を公開しております。九条と祐羽が初めての朝を迎える前日。
中瀬が祐羽の着替えを求めて奮闘するお話です。
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