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第320話 絆されない

どうしたらいいんだろう…。 ここへは再確認したうえで、縁を切りたい事を伝えるために来たはずだ。 それなのに、さっきから切り出そうとしても切り出せない。 「あ。写真撮っとこ」 さっきまで気にもしなかった沈黙が急に怖くなって、祐羽は震えそうになる声を抑えてスマホで泳ぐ魚を撮った。 すると反射した水槽に、自分と隣に立つ九条が偶然にも写っていた。 「あ…」 「何だ」 「い、いえ!何でもありません」 そう誤魔化してスマホを早々にし舞い込む。 さっきもだけど、こうして二人で撮るなんて事はきっとこの先は無いだろうし…記念に残しておいてもいいよね。 「魚の写真はもういいのか?」 「はい。他の所でもたくさん撮ったので」 九条に訊かれて慌てて苦笑いを浮かべる結果になってしまった。 「さっきからどうした」 突然そう訊ねられて、心臓がドキッとした。 「え?」 「何か悩みか?それとも腹でも減ったか」 その言葉に胸の辺りがまた苦しくなって、なんだかウルッとしてしまった。 あんなにも悩んで苦しんでいたのに僕は単純だから、こうやって少し優しくされたら直ぐに絆されそうになってしまう。 九条さん…、でも…絆されたら駄目だ。 祐羽は、 絆され易い自分に渇を改めて入れた。

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