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第321話 覚悟の時
決めただろ、僕…!
祐羽は息を静かに吐いた。
九条がヤクザかどうか。
会社の社長かどうか。
父親の会社へ影響力を発揮したのか。
そうだとしたら、その本当の理由は自分が思っているものと同じなのか?
これは祐羽の考えだが、男とはいえ社会経験も低く力も弱い扱い易い自分の様な高校生が、偶然手元に来たという簡単な理由だろうとは思う。
軽く扱えて、ひと味違う反応が面白いのだろうか。
それとも、これから何かしら裏社会の仕事を手伝わせようとしているのか?
最後に…。
どうして自分と時間を共有したがるのか…。
考えれば考える程に、頭がおかしくなりそうだった。
とにかく、僕の事を解放して欲しいってお願いするんだ…!
ヤクザの人とこんな生活は、いつまでも続けられないんだから!!
だから、九条さんとは今日でお別れするんだ!!
一般人の自分は、これから元居た場所に戻りヤクザとは関わらない表の世界で普通に生活をしていくのだ。
高校生活を楽しみ、大学生になり社会人になって、その間に彼女だって出来るかもしれない。
いずれは結婚して…普通の生活を送るだろう。
そこには九条は居ない。
今日話をして、そして別れた後は九条との出来事は無かった事として時間と共に忘れていく。
それが正しい道だ。
きっと九条さんなら分かってくれるはず。
基本的に優しい人だと思うから…。
そんな事を考えながら見つめる水槽には、反射して僅かに映る九条がいた。無表情だ。
この話をしたら九条は一体どんな顔をするだろうか?
いつもの無表情のまま?困る?「おかしなことを聞くんじゃない」と言って笑うのか、それとも怒らるのか。
どんな反応が返ってきても今の自分なら平気だ…平気だろうか?
ここで縁を切ると決めたのだから。
「あの…」
祐羽はゴクッと息を飲み下ろしている手を握りしめると、小さな声で話し掛けた。
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