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第322話 うっかり風前之灯
「実は、九条さんに聞きたい事が…それとお願いがあって…」
祐羽が覚悟を決めてそう切り出すと、九条は黙ったままこちらを向いた。
その表情はいつもと変わらないので、何を考えているかやっぱり分からない。
これから気になる事を伝えたら、一体どんな顔をするのだろうか。
変わらないのか、それとも…。
「…」
「えっと…」
九条は無表情で黙ったまま。
それがより緊張感を高めていく。
自分が口を開くのを待ってくれているのは分かるが、話を切り出すにはなかなか勇気の居る空気が辺りを包む。
心臓が変に鳴り、一層緊張を高めていく。
祐羽は、震える唇をゆっくりと開いた。
「その…確認っていいますか…。あの、九条さんはそのっ、ヤクザ…なんですよね?」
間違いなく九条はヤクザだ。
今更確認も何もないとはいえ、当人に面と向かってヤクザですか?なんて1番聞きにくい質問だが、出来れば否定して貰えると有難い。
普通なら否定したり憤慨するのが相当だが、九条はあっさりと認めてしまった。
「そうだが?まさか気づいていなかったと言うわけではないだろうな?」
「いえっ、知ってました!九条さんがヤクザの組長さんで会社の社長さんしてるのも、もちろん知ってます!!」
つい訝し気に問い詰められて思い切り否定した。
さすがに鈍感な自分でも九条がヤクザなのは気がついている。
それをバカだこいつと思われたくないのと、九条の表情があまりにも白けていたからだ。
けれどそのせいで、九条自信の口から聞くつもりだった会社の社長という事もうっかり自分で言ってしまった。
「あ」
「知ってたのか?」
九条に問い掛けられて、焦りが生まれた。
これって知ってたら駄目だったんじゃ…。
もしかしたら会社社長は表の顔で、世間的にヤクザという事は隠して会社で稼いでいたのかもしれないのだ。
ど、どうしよう?!
秘密を知られたからには命はない。と言われては堪らない。
祐羽は困り顔で思わず天井に目を向けた。
あぁっ、余計な事を言っちゃった~。
風前之灯って、こういう時に使うのかな?
祐羽は心で盛大に嘆いた。
うっかりな自分が呪わしい…。
※Twitterにて番外編公開してます。
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