330 / 1012

第329話 歩調

中瀬が受け取ってくれてホッとした祐羽は「中に、ぬりえとかハンドタオルとか入ってるんですよ」とにっこり笑った。 「ぬり、ぇ…」 中瀬の頬が自然とヒクッとなった。 そして贈呈された袋の中身をコソッと見た中瀬は複雑な顔で「ありがとな…」となんとか返した。 おまけでくれるタオルなので、作りが若干粗い。 サイズも小さくてデザイン的にも使い道がないのが正直なところだ。 中瀬の(こんなのいらねー)という心の叫びは伝わるはずもなく…。 あっ。もしかして、これって中瀬さんとお揃いってこと?なんか嬉しいかも…。 と、口をニヤニヤムニムニする祐羽なのだった。 そんなふたりを無視して、九条と眞山は次の予定を簡単に立てる。 眞山がさっそく連絡を入れた先は、九条の為なら急な予約も直ぐに空けてくれるし、他言無用の話しをするにも信頼が置ける贔屓のところだ。 「これから向かうと連絡しました」 「おい、行くぞ」 九条は中瀬とやり取りしていた祐羽にそう声を掛けると、さっさと歩き出す。 歩き出した九条とそれに付き従う眞山の後ろを中瀬にせっつかれた祐羽が続く。 中瀬に「横に行け」と言われても、行きづらい。 何故なら、案の定前を行くふたりは買い物客の視線を一身に浴びているからだ。 そんな中を並んで歩く勇気なんて出てこない。 目立ちすぎなんだよね…せめてスーツじゃなければ…。 スーツじゃない家での九条を思い出した祐羽は、どっちにしても注目を浴びてしまうという事に改めて気づくと、おとなしく後を着いて行く。 そんな祐羽に合わせる様に、然り気無くゆっくり歩く九条に気づいているのは、眞山だけであった。

ともだちにシェアしよう!