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第335話 いただきます
正直こんな店で豪華な食事などしたことのない祐羽は、不躾なまでに一品一品をじっくり見ていった。
刺身に天婦羅、それ以外にも小鉢などがズラリと並び、お碗等も所狭しと並べられている。
「それでは何かありましたらお申し付け下さい。では、ごゆっくりと…失礼致します」
そう言って従業員と女将が部屋を後にすると、室内には祐羽と九条、そして祐羽側の斜め後ろに中瀬が付き、九条側に眞山が付いた。
さっき女将の退室の際にチラリと見えたが、何度か見た事のある九条の部下が二人ほど廊下に控えていた。
そうか…九条さんヤクザの組長だし護衛みたいな人が必要なんだよね。
でも日本は平和な方だし、大丈夫だよね。
そんな心配が頭を過る頃、九条が「おいっ」と祐羽の物思いを遮断した。
「飯食うぞ」
「あっ、はい!」
返事をして居ずまいを正した祐羽は、ふと気がついた。
眞山さん達はご飯食べないのかな?
九条さんは別にしても僕も一緒にひとり先に食べるのって、悪い気がするんだけど…。
そう思ってチラッと眞山と中瀬を見ると(前向け)と中瀬から視線と口パクで注意を受けてしまう。
「二人の事は気にするな」
すると、九条がそう言うと眞山も頷いた。
「私達は先程の休憩時間に晩御飯を頂きましたので。他の組員も同様、ご心配なく」
眞山に優しく言われてホッと安堵する。
「あっ、そうなんですか」
「はい。ですから私達の事はお気になさらず」
眞山がその精悍な顔に笑みを湛えて頷いた。
もちろんそれは嘘で、眞山始め同行している組員達は簡単な軽食を口にした程度だ。
しかし今、祐羽に伝える事ではない。
「じゃぁ、すみません…。いただきます」
話が終わったと見て九条が料理に手を出したので、それを合図に祐羽も手を合わせ食前の挨拶をした。
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