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第336話 駄目なモノはダメ
挨拶を済ませるとさっそくお碗の蓋を外し箸を手にした。
とてもいい匂いが鼻腔を充たし、祐羽は湯気を立てる汁を口にする。
「おいしい…」
沁々と言葉が出る。
綺麗な器や籠の中に盛りつけられた手の込んだ料理は、正直食べるのがもったいないと思ってしまう程だ。
汁ひとつ小鉢ひとつとっても味もそうだが目にも華やかで、それだけで幸せの一言に尽きる。
それと同時に、この量を食べきれるだろうかという心配も出てきた。
こんなに沢山食べられるかな?
普段どちらかというと同じ年代の男子と比べると少食の祐羽にとって、この量を食べきる自信は半分だ。
それにお刺身、苦手なんだよね…。
ナマ物が苦手な祐羽は、子どもの頃に食べて以来ほぼ口にしたことがない。
しかし、せっかく九条と店が用意してくれた食事を残す事は生真面目な祐羽には許せない事だった。
九条をチラッと見ると、刺身を口へと入れているところだった。
うっ、よし。お刺身も頑張って食べよう!
祐羽は勇気を出すと箸を伸ばしてさっそく取ると、醤油につけた。
そして口へと入れると、ゆっくりと噛んだ。
やっぱりいいお魚使ってるし、きっと調理の人の腕もいいのかも。
生臭さとか全くない!…けど…。
確かに数少ない刺身の記憶とは月とスッポン程に鮮度は違うのだが、やっぱり好みで無いのかもしれない。
何が美味しいのか分からないし、食感がやはり好きになれなかった。
日本人なのに刺身が苦手とか勿体無いだろうが、駄目なものはダメだ。
うう~感触、気持ち悪い…。
豪勢な食事を頂いているというのに祐羽の噛むスピードは次第に落ち、顔も無意識に渋い顔をしており、調理人には決して見せられない顔をしていた。
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