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第337話 やっぱり優しい
目の輝きは半減し、口元はショボショボと動く。
隠しているつもりでも顔を見れば一目瞭然で、苦手なのが丸わかりだった。
「無理しなくていい」
「…へ?」
まだあんなにお刺身がある…と残りの刺身を見てすっかり眉を垂らし顔色を悪くしていた祐羽は、九条が掛けてきた言葉に一瞬遅れて反応した。
それだけ自分の皿に乗せられた刺身をどう処理するかで悩んでいたのだ。
残すって…確かに食べたくないけど、出来ないよ。
今までも例えば外食では苦手な物は初めから避けていたし、もしあったとしても両親や友達が食べてくれていた。
けれど今回はそういう訳にはいかなかった。
残すのは失礼だし、かといって代わりに食べてくれる人は居ないのだ。
自分が食べるか残すかの二択しかない。
「いえっ、食べます!」
せっかくの料理を残すのはもったいないという祐羽の言葉が出る前に、九条の箸が伸びた。
「!?」
驚く祐羽の皿から取り上げられた刺身は、それから綺麗な形をした九条の口へと運ばれ咀嚼される。
「く、九条さん…」
まさか九条が苦手な物に気づき、残すのを戸惑う自分の為に余分な料理を口にしてくれるとは思わなかった。
九条ほどの男が個室とはいえ人の皿の物を食べるなんて、普段どころか今まで口にすることなど無かっただろう。
僕がお刺身食べられなくて悩んでるのを分かってくれて?それで食べてくれたんだ…。
それから二度三度と箸が動き、祐羽の皿からは刺身がすっかり姿を消した。
特に何も言わず、そのまま九条は自分の皿へと箸の向きを変えて食事を続けた。
その姿を黙って見つめてしまう。
九条が自分の気持ちを揺さぶるのは今日、何度目だろうか。
九条さん、やっぱり優しいよ…。
胸がキューッと締め付けられる思いだった。
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