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第348話 蟠る思い
だけど、聞かなければ何も分からない。
この胸の奥に蟠 る思いを解けそうもない。
答えが分かる怖さと、何か救いがありそうな懇願にも似た何かが沸き上がった。
「あ、あの…っ」
「なんだ」
祐羽はひとつ小さく深呼吸をすると、何とか声を絞り出した。
僅かな音だったが九条には十分に届いた様だった。
じっと自分の話の続きを待ってくれている。
もう声を掛けたが最後。
疑問を投げ掛け、答えを貰わないと先にも後にも身動きが取れない。
祐羽は視線をソッと伏せた。
「その…ずっと、九条さんに聞きたいことが…」
「遠慮せず言え」
なかなか本題に移れない祐羽に、九条が促してくれる。
お陰で言い易いとはいえ、答えが怖い事に変わりない。
答え次第で九条がどう出てくるか分からない。
だけど本当のところを聞きたくて…だけど自分の望む答えと違ったら?
不安が渦巻く中で祐羽は言った。
「九条さんは…ヤクザじゃない、別の会社の社長さんもしてますよね?」
「ああ。それがどうした?」
祐羽の問い掛けに九条はアッサリと認めた。
特に隠す事でもないからだろう。
最近のヤクザは表の会社も幾つも持っていたりするらしいのは、祐羽も調べて知ったからだ。
問題はその先だ。
「その…九条さんの会社ですけど、僕のお父さんの会社と、取り引きを始められましたよね?」
「…」
九条からは肯定も否定もない。
「…お父さんが言ってました。ずっと交渉してダメだったのに、自分が担当になった途端に大手の、九条さんの会社と提携が結べたって!」
脳裏にあと時の嬉しそうに笑う父・亮介の顔が浮かぶ。
この事を九条にぶつけてしまうと父の会社の提携がもしかしたら白紙に戻ってしまうかもしれない。
けれど、今はもう気遣ってはいられなかった。
「何で急に提携を?特別何も変わった事なんて無いのに…変わった事と言えば僕のお父さんが担当になっただけ。…もしも、僕を使ってお父さんから九条さんの会社に何か有利な条件を飲んで欲しいとか、そんな考えを持ってだったら…」
自分でここまで一気に言ってから、祐羽はその可能性が1番高いのではないか?
いや、これが九条の思い描いた道筋に違いないと思えた。
「そんな理由で僕とこうして会ってくれているなら…それは、そんなの…そんなの…っ」
九条が自分と会ってくれる理由が他に思い当たらず、唇を噛み締めながら言葉を吐き出す。
最後は目から溢れた何かが頬を流れた。
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