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第353話 告げる想い

夜の港は遠くに船が行き交い、空には星が瞬いている。 時折吹く優しい風。 海沿い。 ほんのりと照らし出された場所にふたりは向かい合っていた。 言い切って居たたまれなくなり俯いた祐羽と黙ったままの九条。 周りに人はもちろん居ない。 静かに遠くで汽笛が鳴ったのが聴こえるだけだ。 きっと祐羽が思うよりも時間にすれば短かっただろう。 けれど、祐羽からすると長いと感じるには十分な時間だった。 「俺の答えを聞いたらお前はどうするだろうな…」 「え?」 不意に溢された九条の言葉に、祐羽は落としていた視線をゆっくりと上げた。 そこには少しらしくない表情を浮かべた九条が居た。 困ったといえばいいのだろうか。 そんな表現がピッタリの顔だ。 そう呟いた九条は、どこか訴える目をしていた。 こんな目をした九条さん、初めて見た。 なんでそんな顔するの? なんでが増えちゃうから、…困るから辞めて欲しい。 九条が口を皮肉気に歪めた。 それからポケットに入れていた手を出すと、垂れてきた前髪を後ろへ軽く流した。 「お前と初めて会った時から目が離せなかった…」 え?初めて会った時から…? 予想外の言葉だ。 目を閉じてそう言った九条は、それからゆっくりと視線を祐羽へと向けた。 外灯の明かりが瞳に浮かんでいる。 祐羽はじっとその光を見つめた。 「出会い方が悪かったから記憶に残っただけだと思った…思い込む事にした」 どこか悔しそうに、そして懐かしそうに九条が言った。

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