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第364話
九条はキスを額から目尻、そして濡れた顎を舐めた。
それからキスを唇へ落とすと、今度は耳へと移る。
耳朶を食まれて甘い痺れが起きた。
「あっ、ンッ、クゥ…」
思わず声を上げると、そのまま耳の中へ舌が差し込まれ舐められゾクゾクっと肩をすくませた。
新たな快感が生まれ声が我慢出来そうもない。
「あ、…あッ、うぅん…っ」
「…ハァッ」
気持ちよさに祐羽が声を出すと、九条の熱い吐息も漏れる。
その吐息にさえブルッと感じた可愛い恋人の様子を楽しみながら九条が祐羽の顔の横へ腕を着いて首筋に顔を埋めた時だった。
気持ち良さに身を任せる自分とは別の自分が顔を覗かせ、ここで祐羽の冷静さが僅かだけ顔を出た。
えっ…
そうだ…これから僕、九条さんと…
祐羽はこの行為の続きに漸く思い至り、恐ろしい事実に気がついた。
すると無意識に制止のことばが口をついて出ていた。
「や、嫌だ!!」
「!?」
それまで身を任せていた祐羽がいきなり泣きそうな声でそう叫ぶと、手を突っぱねた。
それから九条の下で素早く身を反転させた。
あまりの予想外の事に九条が驚く間に、小柄な祐羽は隙間から上手くすり抜ける形でソファから無様にもボテッと勢い良く床へと落っこちた。
「うぐ…っ!」
潰れた声を漏らした祐羽は、ラグが敷かれていたとはいえ、その痛みに耐えてそのままゴロンと回転してなんとかうつ伏せになる。
それからヨロヨロと四つん這いで体勢を整えそこへペチョンと座った。
「…す、すみません…ごめんなさい」
ソファで理解不能という顔でこちらを見る九条に、祐羽は泣きそうな声で項垂れながら謝った。
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