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第365話
「…いや、俺が悪かった」
驚いた様子は直ぐに鳴りを潜ませゆっくりと姿勢を戻した九条は、不味かったかといった表情でこちらを見た。
「お前が俺のものになったと思ったら…我慢出来なかった…」
その言葉に祐羽はハッと表情を変えた。
「九条さん、違うんです…!嫌じゃなかったです、キス!そのっ、…気持ち良かったですし…」
「…祐羽」
言って恥ずかしくなりカカーッと顔を紅潮させながらも真実を伝える為に、頑張って顔を真っ直ぐに向けた。
「ただ…僕…」
「…何だ」
祐羽は力を取り戻した体に渇を入れて立ち上がると、ソロっ、ソロっと一歩ずつ後ろに後退していく。
その様子を九条は訝し気に眺めているだけだ。
九条との距離が離れてリビングの出口まで来た時、祐羽は意を決して自分の思いを口にした。
「僕、お風呂…入ってない」
「?」
「だってお風呂入ってないから、汗かいてて汚いんですもん!」
「風呂…?俺は気にしないが、」
「気にするんですっ!!九条さんはよくても僕は…、とにかくお風呂貸してくださいっ!!」
半ベソでそう叫び祐羽は走って風呂場に向かった。
九条さんが気にしなくても僕は気にする!
だって朝から学校あって部活あって人混み歩いて水族館と海沿いで…絶対にしょっぱくて僕、汚いよ!!
九条さんはさっきも全然汗の臭いとかしなかった。
だから問題ないし、僕も九条さんの臭いなら気にしない。
って、逆に相変わらずいい匂いがしてたし!
だけど僕の体は絶対に無理。
汚い僕の体にあんな風にキスされたりとか嗅がれたりとか耐えられない!
臭いとか思われて嫌われたくないよ…!!
祐羽は最後の自分で思った『嫌われる』ワードに敏感に反応して、ジワリと涙目になる。
想いを確認しあったばかりなのに、直ぐに嫌われたら自分は泣いても泣ききれないだろう。
絶対にこんな事で九条に嫌がられたくなかった。
祐羽の辞書に【雰囲気 】という言葉など存在していなかったのである。
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