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第386話 ★

そんな九条が出社すると、あちこちから声が掛けられる。 「おはようございます!」 「社長、おはようございます!」 女性社員からは、その整った顔と男らしさからハートの視線を飛ばされ、男性社員からは仕事の出来る成功者と、羨望の眼差しを向けられるカリスマ社長。 怒らせるとオーラだけで、社員だけでなく取引相手までもを黙らせる姿は、もはや日常茶飯事である。 「九条社長って、マジでスゲェよな!!」 これは社員の口グセになっていた。 専用のエレベーターへ乗り込み社長室へと着くと、さっそく仕事を始める。 休む暇も惜しいとばかりに書類に目を通し、電話でやり取りして、ランチは他企業社長との会食で済ませてしっかりと次の事業への段取りを取り付ける。 こうして今日も山のような仕事をこなすと、九条は会社を後にするが、これで終わりではない。 次は少々面倒な裏家業の仕事の時間だ。 九条を乗せた車が着いたのは、何度か訪れたことのある高級料亭。 少し離れた部屋へ向かうと、廊下にむさ苦しい男達がおり、案内されたその入り口には強面の男が二人立っていた。 普通なら緊張や萎縮するだろうが、しかし逆に男達の方が九条に圧倒されて息を飲む形になっている。 「お待たせしてすみません」 部屋へ顔を出すと、側近に酌をさせ既にほろ酔い気分の男が出迎えた。 「お~来たか!まぁ、座れ」 豪快な笑いで九条を迎え入れたのは、親戚の叔父・新倉(にいくら)だ。 昔から可愛がって貰い、この世界でも力を存分に貸してくれる。 数少ない信頼性の高い相手でもあった。 九条も新倉に対して、ある程度のプライベートを口にするものの…やはりいつ何が起きるか分からないのが裏の世界。 足を引っ張られる可能性は極力排除したい。 なので当たり障りの無い事しか口にしなかった。 そんな計算を常にしている九条を理解した上で、新倉は笑いながら我が子の様に接してくれる。 それが有難かった。 今夜は気兼ね無い相手だったので、九条も少し気を抜いて楽しむことが出来た。 いつも新倉の様な人物ばかりを相手にするなら楽なのだが。 こうして2時間ほど酒を酌み交わし、お開きとなった。 「それじゃぁ一臣、またな!」 新倉が酒のお陰で気分よさそうに手を上げると、車に乗り込んだ。 九条は新倉の乗った車が去るのを見送ると、疲れに気づかれぬよう心の中で溜め息をついた。

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