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第390話 ★
「社長、ご自宅でよろしいですか?」
家の外で待機していた眞山が声を掛けるが、九条の表情は特に変わらない。
いつも通りだ。
「あぁ」
家の中からは泣き叫ぶ女の声がしている。
九条に愛を叫び続けていた。
半年は九条にしては、珍しく長く抱いた女だった。
とはいえ他にも女を宛がわれるので、この女に関しては多くて2ヶ月につき1回程度だが…。
それでも女が他のホステス仲間に自慢出来るほどには、抱かれていたのだ。
愛人と呼ぶことさえ許されない立場で、図々しくも勘違いした女の末路だ。
これからは九条の訪問を待って心弾ませる日は、一生来ない。
何度も繰り返してきた九条にとっては、日常のごくありふれた場面だった。
九条の隣で頬笑んだ特別な存在など、今まで誰ひとりとして居なかった。
求めたこともない。
帰宅した九条は眞山を労い別れるとシャワーを浴びて直ぐにベッドへ横になった。
全く無駄な時間を過ごした。
スッキリするはずが体に何か得体の知れない物が燻る。
「…」
それから暫くして、ゆっくりと目を閉じる。
この家には家族と眞山以外が入った事はない。
入れた事が無いというのが正しいだろうか?
本当に心を許せる相手は家族と眞山以外は誰も居ない。
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