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第397話 番外編『水族館飼育員は見た…!』
本編で水族館デートを果たしたふたりですが、その現場に遭遇した飼育員目線からのお話。
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俺はこの水族館で働いて8年くらいになる。
さすがに仕事にも慣れてきて、色んな生き物の世話も任されたりもして日々充実していた。
元々生き物が好きでこうして水族館職員になったのだが、だからといってサービス業でもある水族館。
嫌でも毎日いろんな客に会うわけで…。
俺はバックヤードから展示室へ向かう為にドアの前まで来た。
ここから出ると明るさは一変する。
向こうに合わせてこの通路側にカーテンが垂らしてあるので、明かりが展示室へ漏れる事はないが慎重に俺はドアを小さく開けた。
出る先は深海コーナーの為、正直暗い。
ただでさえナイトタイムで館内が薄暗いというのに…。
深海コーナーは水槽よりも剥製等の展示物が多いうえ、青の照明が申し訳程度にほの暗く照らされていて、音響も洞窟を思わせる様な水の響き。
おまけにナイトタイムのこの時間にもなると客が居ることは、ほぼ無い。
お化け屋敷みたいな、それも剥製展示や説明パネルが多いコーナーは人気も無く、正直誰も居ないだろう。
そう思いつつゆっくりドアを開けていく。
お~やっぱり誰も居ないな。
俺も夜のこの時間このコーナーは少し苦手だ。
早く抜けよう。
そう思い体を動かした時だった。
「わぁーーーっ!!!?」
突然、思わぬ悲鳴が上がり俺は心臓を大きく脈打たせた。
心理的にその場で飛び上がっていたくらいだが、実際はドッドッドッという心音をうるさい位に聴いていた。
な、なんだよ~マジひびった~。
俺は呼吸を整えながら、悲鳴の主を確かめようとそちらへ視線を向けた。
そこには悲鳴の主らしい人物が、もうひとりへとくっついていた。
そして顔を相手の胸元へ押し付けて、視界を遮っていて、どれだけ驚いたのかがそれだけで分かった。
分かったけど、俺も同じくらいに驚いたんですけど~。
ん…男?
よく見ると学ランっぽい。
確かに悲鳴も高い声とはいえ少年の声だったような…?
そう記憶を辿りつつ見ていると、その男子学生の頭と背中を大きな…これまた男の手が優しく包んで安心させるように少し撫でた。
そこで初めて俺は相手の存在に気がついて、視線を上げた。
…上げた…背が高いなおい。
「!!!」
視線の随分上げた先に相手の顔があった。
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