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とうとう運命の放課後だ。
「摩波呂は音痴って言われて、殴られたって言ってますよ?!先生が嘘を言ってるんじゃないんですか?!」
摩波呂が音痴なのは事実だ。
おまけに先に殴ったのは、摩波呂。
「摩波呂を悪者にしたいんですね?!」
どっちが悪者とか悪者にしたいとかじゃない。
第一に、子どもの事を悪者だなんて一度も思った事はない。
子ども同士の喧嘩には意味があるのだ。
「摩波呂はいつも言ってますよ!佐藤先生に怒られたって!!」
怒るというか注意です。
いつも彼の起こしたトラブルに対して、時間を割いて話し合いをしています。
その間の保育は止まりますけど…。
お迎えの時間を三十分も前に早々やって来た摩波呂の母親。
クラスの子ども達を急遽他の職員に預けての対応だ。
そんな相手の都合など一切無視した摩波呂の母親に槍のようにグサグサと言われてヘロヘロとなる。
止められなかったのは自分の責任なので、謝るしか方法は無い。
「そういえば、前にも摩波呂はその子に仲間はずれにされたって言ってましたよ?!」
母の怒りをよそに連れられて来た二歳の妹は、部屋の本を片っ端から引っ張り出してはそのままにしていた。
「ね~ね~ママぁ、ジュース欲しい!!」
喉が乾いたと言っては、母親が取り出した紙パックのジュースを飲む。
一時間に三本目…飲ませすぎだ。
しかも溢しているし、二本目に至っては半分残していた。
あぁっ、部屋の中を走らないで。
危ないから~ッ!
と思ってたら案の定転んでギャン泣き。
「蘭羅《らんら》大丈夫?!」と駆け寄る母。
所長と佐藤も駆け寄るが、キッと睨まれる。
「先生の掃除がきちんと出来てないから滑ったじゃないですかっ!!」
コンコンッ
そこへ部屋のドアがノックされる。
視線を向けると、静かに開かれた。
ヌッとそこへ現れたのは、長身の男だった。
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