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怒りに顔を般若にしていた摩波呂の母親は、入り口に立つ相手を見上げ口を開けたままポカンとした。 「遅くなってすみません」 低い声がして、佐藤はハッと我に返った。 「い、いえっ!こちらこそ、来て頂いて」 佐藤が頭を下げる横で、所長も下げる。 「すんませんね、うちの一臣が」 そう言ってポリポリ頭を掻いた男は、一臣の父親の英治《えいじ》だった。 顔は男らしく整っており、どこか日本人離れした造りをしていた。 スーツをビシッと決め大人の色気をこれでもかと垂流しており、一気に室内の温度が上がる。 英治の顔を見る事が出来るのは、家庭訪問で行って運良く遭遇するか、大きな行事に運良く顔を見せるか、の一年に数回あるかないかだ。 なので、担任の佐藤といえどもフェロモンにクラクラしてしまう。 「で?話相手ってのは誰ですかね?」 分かっていて訊く辺りが確信犯だ。 流し目を摩波呂母に遠慮なく送る一臣の父・英治に、佐藤と所長は一緒になって頬を染めていたのだった。 所長と佐藤の胃をキリキリとさせていた大きなトラブルは一体どこへ行ったのだろうか? 向かい合って改めて経緯を説明した佐藤に、英治が謝る。 それから摩波呂母にこれでもかと顔を近づけて、視線を合わせたまま囁く様に謝る。 「奥さん…。うちの息子がすみませんでしたね」 すると、摩波呂母は勢い良く顔を左右に振って「とんでもないですぅ~」と自分の息子がいけなかったのだと言い切った。

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