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一方の九条はゲンナリしていた。 (男、俺だけじゃねぇか…) そこに集まっていたのは店長の男以外、全員女性ばかり。 カフェのバイトは女性が多いとは知っていたが、まさか自分以外に誰も採用されていないとは思っても居なかったのだ。 (仕方ねぇか。まぁ短期だし) そう気持ちを切り替えた一臣は、諦めて他のメンバーの元へと歩み寄った。 (…?大丈夫かよ、コイツ) 隣のバイト仲間が何度も深呼吸を繰り返し、顔を赤くしているのを見て他人事ながら心配になる一臣は思わずジッと見てしまう。 すると、彼女は小さく悲鳴をあげて変な動きで離れてしまった。 男が苦手なタイプか? なら近づくの止めとくか…。 そうこうしていると、店長が笑顔で口を開いた。 「さて、皆揃ったみたいなのでこれからオープンに向けて2日だけですが研修を始めたいと思います。簡単なことばかりですので、緊張しすぎないで笑顔で頑張りましょう!」 店長の挨拶と共に、一臣達の研修が始まった。 挨拶の仕方から。 まず教育係の社員の挨拶を聞いて真似を何度か繰り返す。 それから、ひとりずつ行うのだ。 正直、一臣は挨拶をされる側で自分から丁寧に笑顔で挨拶など殆どしたことがない。 (爽やかな笑顔とか…やったことねぇよ) 内心で溜め息をつくが、これも勉強だと腹を括る。 バイト仲間達は恥ずかしそうにしながらも頑張って可愛い声を出している。 しかし、可愛い声は一臣を意識してのことだとは勿論知るよしもない。 そして案の定「いらっしゃいませ」という一臣の美声による挨拶は、貴重な微笑みつきで文句無し。 女性陣から合格100億満点を貰ったのだった。

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