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こんなアホには構っていられない。 増渕が頭を一臣に下げると、今度は職員に向き合った。 「すみませんが、金尾議員の関係者です」 若い息子だと思った男がまさかの指示出しで、父親と思った男が部下らしく、しかも関係者と言うので驚いた職員は絶句している。 「いっとくが佐々木の関係者でもあるからな」 佐々木は市長であり、自動的に二人の上司となる。 「案内しろ」 一臣に命令された職員は、その声の低さと肉食獣を思わせる気配に悪寒を感じる。 鋭く睨まれてしまえば、どちらが上か言わずとも分かる。 本能で察した。 「ははいっ!!コチラです!!」 「失礼しました~どうぞ!」 冷や汗を垂らしながら腰を低く案内をする男達の後ろを着いて行く。 そうして案内された部屋には『金尾 公雄先生』と印字した貼り紙。 コンコンと職員がノックすると、中から真面目を絵に描いたような秘書らしき男が顔を出す。 「今、先生は他の方とご歓談中です。時間までまだありますが急用ですか?」 神経質そうに眼鏡の奥の細い目で、職員をジロッと見た。 「す、すみませんっ!ええっとですねぇ…コチラの方が先生のお知り合いだと…」 「え?」 秘書は一臣の姿を見て、その整った顔に面食らうが、次には覚がないと少し怪訝な顔をする。 「おい。金尾に話がある」 「…どなたでしょうか?」 フッと鼻で笑い掛けた一臣が顔を寄せると、少しドキッとしつつ秘書は耳を素直に預けた。 しかし、そうして耳元で囁かれた名前に一瞬で秘書は顔色を無くした。 「しょ、少々お待ちください!呼んで参りますので!!」 秘書の慌てぶりを見て、職員ふたりはとんでもない事になった!と関わらない様に何も見なかった…と、その場を静かに離れていった。

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