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・・・・・・ ハッ…!! 祐羽は夢の中から現実へと引き戻された。 夢…。 また同じ夢みちゃった。 祐羽は頬を赤らめて項垂れた。 夢の中でも九条のキスは深く激しい。 まだ慣れない自分は翻弄されっぱなしだ。 生まれて初めての恋人。 恋人同士という関係になると心がホワホワしてウキウキする。 そうはいっても、まだ慣れないのでウキウキよりも九条に色んな意味でドキドキしている。 九条さんが僕の彼氏…。 まさか今も僕、夢の中に居るとかじゃないよね? 祐羽は側にあるシャチのぬいぐるみに視線を向け、それから手にした。 あの日から1ヶ月も経つのに、何度も見てしまう夢は、九条と思いを伝えあった時の事や体を繋げた翌朝の光景。 体は辛くても幸せで心の中は満たされていたし、気遣ってくれ優しすぎる九条に戸惑いつつも穏やかな時間を過ごすことが出来た記憶が夢で繰り返し、祐羽はあれ以来眠りにつく前は幸せな気持ちに支配されていた。 そんな風に九条と心を通わせてから、祐羽の心境は大きく変わっていた。 最近では日曜の夜に九条と離れる時は、ちょっと寂しく感じる自分が居る。 あんなにも縁を切りたがっていたのが嘘の様で、そんな自分を内心笑ってしまう。 でも本当に九条さんと縁を切らなくて良かった…。 人生というものは、どう転ぶか分からないものだ。 嫌いだったはずの人間をこうして好きになるし、そんな相手から好きになって貰えて恋人という関係になるのだから。 優柔不断で迷いがちな自分にしては、1番正しい選択をしたのだと祐羽は何度も(良かった)を繰り返した。 とはいえ、恋人というものが初めて出来た気恥ずかしさや嬉しさにばかり囚われてはいなかった。 それは何故かというと、実は九条に会えたのは僅かに4日間だけだったのだ。 理由は簡単で、九条の仕事が多忙だったことや祐羽の部活の試合と家の都合が原因だった。

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