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初めは無理矢理だったからな…。 あくまでも一般人で、しかも男である祐羽には気の毒な事だったが。 結果的に九条の為には良かった。 必要な犠牲というものもある。 月ヶ瀬くん1人で会長の力が増幅するのであれば、安いものだ。 眞山は祐羽を好意的に思っているし、こんな裏社会の人間に目をつけられ、そして囲われて可哀想に思う。 思うが、やはりこういう考えを持ってしまう所が自分もやはりヤクザなんだな…と自嘲した。 都内某所にある威圧感溢れる建物。 それが九条が代表を勤める『旭狼会』本部事務所だ。 そこらの建物とは構造が違い、見た目からも一線を画していた。 入り口は高い塀に囲まれ、防犯カメラが死角を許さず24時間稼働している。 道路に出て会長の到着を待っていた若い衆が頭を下げて、招き入れる。 普段は閉められている重々しいシャッターもこの時ばかりは解放され、九条を乗せた車と護衛の車が連なって敷地へと入って行く。 自分達のボスである九条が来るとなると、普段は静かな組事務所も一転、慌ただしくなる。 組員総出でのお出迎えは必須だ。 正直間違いを犯せば恐ろしいが、逆に自分の命を預ける相手だと思えばこんなにも頼もしい人間は居ないだろう。 九条一臣はそんな男だ。 ここには先代から残った人間と、九条に選ばれて忠誠を誓う人間しかいない。 そんな選ばれた中の1人が、本部長の来嶋(きじま)省吾(しょうご)だった。 来嶋は九条より8つ歳上で、ヤクザの世界での生活も先輩だ。 とはいえ、年下の九条は組長として文句なく優秀で、自分のプライドなんてちっぽけな物だと思わせる男だ。 来嶋は九条のことを心から尊敬し、そして畏敬の念を抱いていた。

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