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・・・・・ 家に帰ってからも頭が悶々とする。 まさか、あんな場所で出会うなんて。 しかもどう見てもカタギではない。 そして、男の子を抱えて出てきた九条…。 「一体どういうこと?犯罪…?」 布団にくるまって頭を疑問符で浮かべていく。 それならば警察に…! 「…で、できないよぉ~っ、無理」 華林は九条の顔を思い浮かべていた。 それから取り出したスマホの画像を見つめる。 整った男らしい隙の無い知的な顔だ。 就職して初めて見た時、一瞬で恋に落ちてしまった。 望みが無い今でも、やっぱり好きで…。 「九条さん…」 華林はべそをかきながら、街で見かけた九条を思い出す。 「ヤバイ九条さんもカッコよかったなぁ…はあっ」 脳裏には九条の姿が何度も甦る。 そのうちに、ふと気がつく。 「…そういえば」 九条の抱えていた男の子は恥ずかしそうにしていたが、嫌がっていただろうか? 暴れてはいなかったようだ。 そして、九条は…。 「……あ」 確かあの時、一瞬だけ男の子を見下ろしたのだ。 その表情はどうだっただろうか? 九条の柔らかい口元に気がついたのは自分だけ? 絶対に見ることの無いであろう、九条の慈愛にも似た表情。 決してニッコリ笑った訳ではない。 けれど、見間違いでは決してない。 毎日、九条の事を見つめてきた自分だから分かる。 「………、誰なんだろう」 九条にあんな顔をさせた少年は、一体…。 大切な関係に違いない。 それならば…と、華林は黙って目を閉じた。

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