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隆盛がよく話しかけてくれるので、祐羽はモグモグさせつつ、ウンウン頷いて楽しいご飯になった。
ヤクザと聞いて正直怖くて緊張しまくっていたが、いざ向き合って会話をしてみれば全くそんなことはなく。
紫藤さん楽しいな~。
僕もこんな風にたくさん話しが出来たらいいのに。
そしたら九条さんを楽しませてあげられるのになぁ…。
自分のダメなトーク術を向上させたい祐羽にとって、紫藤はお手本の様な存在になった。
この滞在中、また会えるといいな。
そんな風に思いながら祐羽は羨望の眼差しを紫藤に向けていた。
・・・
「はぁ~食った食った!」
「ごちそうさまでした」
食事が終わり紫藤が満足そうな声を上げ祐羽が頭を下げると、隣に居た九条に肩を抱き込まれる。
「遅くなったから戻る」
「えっ?!わわわっ…っ!!?」
いきなり方向転換させられ足元が覚束無い祐羽は九条に例の如く抱えられる。
「隆盛、またな」
「お、おうっ。またな」
隆盛の顔を肩越しに見ただけで九条はさっさと退店する。
さすがに失礼ではないかと心配になる祐羽だが、九条に小脇に抱えられては大人しく運ばれるしかない。
なんとか頭だけペコペコさせて「失礼します」を伝えた祐羽は背後から聞こえる笑い声を聞きながら車へと運ばれて行ったのだった。
そしてホテルに戻ってきた祐羽は、明らかに九条の空気が悪いことを感じていた。
僕、何か九条さんを怒らせたのかな?
…せっかく楽しかったのに…どうしよう。
盛大な溜め息を吐きながらソファへと座った九条の横顔を祐羽は神妙な顔で見つめるしか出来なかった。
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