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背中を向けた九条の姿がぼやけた。
そして、祐羽の視界がユラユラと揺れて不明瞭になっていく。
自分は特別何か持っているわけでもなく、普通の高校生だ。
九条が自分に固執する理由は無くて、祐羽のちょっとしたマイナス面を目にすれば、あっという間に心は離れていくだろう。
九条には幾らでも相手が居る。
それに改めて気がついた。
九条とのちょっとした出来事が甦っていく。
もしも別れる事になったら、九条とこの先楽しい事は何一つ出来ない。
九条の優しい目で見つめて貰い、頭を撫でて貰うこともないのだと思うと我慢できなかった。
「うっ、うっ、うぅ~~~っ」
とうとう声を出して泣き始めてしまった。
九条さんと別れたら、どうしたらいいんだろう。
つきあう事自体が初めてなのに、フラれるなんてそれこそ経験が無い。
「うぅ~っ、うぇっ…」
目元を隠して、えぐえぐと嗚咽を漏らし始めた祐羽に九条の声がやたらクッキリハッキリと聞こえた。
「何を泣いてる」
「う?」
あれ?
手を外し隙間から覗くと、九条が眉間に皺を寄せてどこか呆気に取られた様子で見下ろしていた。
九条さん、怒って出ていったんじゃ…?
「今日はやりたくなかったか?」
「え?」
急に何のこと?
「お前があんまりアイツに…いや、もういい」
そう言うなり九条は祐羽を抱き起こすと、逞しい胸に抱き込んだ。
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