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「え?…もしかして今、頷いた?!」 すると再び鹿が頷いた。 おおっ!! もしかしてこの鹿、言葉が少し分かるとか? いやいや、まさか~。 そう思いながら周りの鹿を見てみる。 他の観光客と鹿は会話なんてしていない。 呑気な顔で観光客の自撮りにつき合っているだけだ。 「…鹿さん。もしかして人間の言ってる言葉、少しは理解出来てたりする?」 すると鹿は頷いてみせた。 や、やっぱり…!! 「九条さん!」 祐羽は側に来て自分を見ていた九条に慌てて駆け寄った。 「どうした」 訊ねる九条に祐羽は声を小さくした。 「この鹿さん。ちょっとだけ言葉を理解できるみたいなんですよ」 祐羽は至極真面目な顔でそう言った。 「…」 九条の顔は相変わらず変化が無いので呆れていることに気づかない祐羽は「僕が話し掛けたら首肯いたんです」と嬉しそうに鹿を見る。 「そうか」 「そうなんです!九条さんも何か話しかけてみて下さい!!」 「…」 キラキラした目で再び九条を見上げた祐羽。 全員が沈黙する中、鹿は立ち上がるとトコトコと去って行った。 「あっ、鹿さん…」 去ってゆく鹿に、祐羽だけが残念そうに手を振って見送るのだった。

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