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「おい。行くぞ」 「あっ、はい…あっ!」 寂しそうに鹿を見送った祐羽は、九条に声をかけられると同時に肩を抱き寄せられた。 よろける余地もない程にしっかりと密着した体にカッと熱が帯びた。 「ちょっ、九条さんっ」 周りの目を気にし祐羽は慌てて離れようとするが、アッサリと離されて(あれっ?)となる。 「陰に入れ」 「え?」 「熱中症は怖いですからね」 後ろから眞山の声がして振り返ると、その隣に居た中瀬が心配そうに窺っていた。 「お茶でも飲んどくか?」 確かに夏は暑い。 今日は昨日よりかは気温がまだ上がっていないとはいえ、太陽が真上から自分達をジリジリと僅かずつだが焼いていた。 朝とは違いこれから気温もまだ上がることを思えば、小まめに水分補給は必要だ。 祐羽はここで漸く九条が熱中症を心配して陰に入れてくれたことに気がついた。 鹿に夢中で、その間に頭は直射日光を浴びていたのだ。 そういえば、あの鹿さんは陰に座っていたなぁ…。 気づくと急に喉が渇いてきたから、なんとも不思議なものだ。 祐羽は「じゃぁ、すみません。お茶を少し」と言って鞄からペットボトルを取り出すとひと口飲んだ。 しかし他の誰ひとりとして、水分補給をする者は居ない。 喉が渇いていないはずはないのだが…。 そうか。 九条さんが飲まないからだ。 トップが飲まないのに、部下が飲めるはずもない。 けれど、自分以外の誰もペットボトルを持ち歩いている様子がないので、これは購入して貰うしかないとはいえ…。 「九条さんも喉、渇きませんか?」 九条に水分補給をさせようと、祐羽はそう声をかけてみた。

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