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廊下の角を曲がった先にトイレの案内を見つけた。
高級店といった豪華な内装は照明の力と緩やかに流れるクラシック曲の力もあってか雰囲気もあり、一般人の祐羽さえお金持ちになった気分を味あわせてくれる。
この目の前にあるトイレのドアさえ大豪邸のドアにありそうな造りをしていた。
「ここでお待ちしています」
「すみません」
白田がドアから何歩か離れた壁を背にして立つと、祐羽はペコリと頭を軽く下げてドアを潜った。
二重扉になっているのは、トイレ内の音を外に漏らさない様にという配慮だろう。
横に備えられていた姿見に影が写ったのにギョッとしたが、それが自分の姿だと分かりホッとする。
しかし、二つ目の扉を開けた先に実際に人が居たのには心底驚いて、思わず声をあげそうになった。
スーツ姿の先客は用を足している為、後ろ姿だったのが救いだ。
自分の驚いた間抜けな顔を見られずにすんだのだから。
なんとか声をあげなかった自分を誉めてやりたい。
お化け扱いをすれば相手の人に失礼だろう。
本当にビックリした~。
でも良かった。大きな声出さなくって。
僅かに流される音楽を耳に、祐羽は白田を待たせている事もあり早く出ようと用を足すことにする。
先客とは1番離れた場所に立った祐羽は、生理現象に身を任せた。
そんな祐羽より先にやって来ていた客は終わったらしく、奥から歩いて祐羽の後ろを通りすぎる。
そう思われた客の足音が自分の真後ろで止まった。
気のせいかも?と思ったが、通り抜けない。
洗面台に客は向かっておらず、背後に気配を感じる。
「……っ…?」
な、何で?
何で後ろに止まってるの?
怖くなって逃げたいが、直ぐに直ぐ用を終わらせることは不可能で、祐羽の心臓が一気に酷く打ち鳴らされた。
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