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「えっと…」
九条は大人でモテるのは知っているし、過去に彼女が居たことも言われなくても分かる。
分かるけれど、あまりその話は聞きたくない。
「あっ。ゴメン。君の前でこんな…」
九条のことを少なからず知っている様子の男が、祐羽の戸惑いを感じ取り口を閉じてこちらを見た。
「まさか恋人が男とは思わなかったから驚いたよ。だから1度近くで見たかったんだ君のこと」
男はその整った顔に先程までとは違った微笑を浮かべた。
「え?」
「そろそろリミットか」
男は何かボソッと呟く。
「それじゃぁ俺はもう時間だから行くね。おっと、話してたら忘れるところだった」
男はふざけた口調で言いながら手を洗うと髪型を軽くチェックする。
チェックしなくても十分に整っているが例え崩れていても、それさえ魅力に繋がるだろう。
「あっ、あのっ!」
「じゃぁ、またね~バイバイ」
九条との関係や名前を訊こうと勇気を出して口を開いた祐羽だったが、男は聞く耳を持たなかった。
笑顔で手を振って去る男に祐羽は唖然とする。
あまりに怒濤の展開すぎた。
一方的に絡んで喋って去っていく。
「フフッ…楽しくなりそうだな」
小さく呟く男の声はドアの開閉音に掻き消され、祐羽の耳に届くことは無かった。
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