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「土地勘ないのが悔しいな…何処だ此処。たぶん走った方向的に南の方だと思うけど…」
「中瀬さん、凄い」
「本当に凄いね」
祐羽と外崎が尊敬の眼差しを向けると、気がついた中瀬は両手を眼前で振りながら否定する。
「ぜ、全然っ!全然凄くなんてねぇよ。前の仕事が一応探偵だったから」
「「た、探偵!?」」
驚いて外崎と声が揃った。
「つっても、マンガみたいに事件解決とかするような探偵じゃないぞ」
「それでも凄いよ!」
外崎が言うのに祐羽もウンウン首肯くと、中瀬が珍しく頬を染めて照れた。
「とはいえ、それだけしか分からないし。こんなことなら自分にでもGPSつけとけば良かった」
以前は付ける側だったが、まさか自分がこんなことになろうとは思ってもいなかった。
それを言うなら誰しも一緒だろうが、中瀬は祐羽の世話を任された立場で、まんまと拉致された失態を心底悔やんでいた。
「南の方角にある山で一時間ちょっとか…。おおよその場所さえ隆成さん達に伝えられればいいのに」
「クソッ…!会長や眞山さん達に迷惑かけちまう」
外崎は悩み顔を俯け、中瀬が後悔に顔を歪めた。
「中瀬さん…」
「柳さん達が早く伝えてくれたらいいんだけど。絶対にアイツら敵対組織の連中に違いない」
「ですね。私達は交渉の道具にされるはずですし、今の日本ですから簡単には殺されたりしないでしょうけど」
「交渉の内容によりますね」
難しい話で祐羽は付いていけないが、ふたりの様子と今の状況から絶対的に危険であることは分かった。
「アイツら見たこと無いんだよな…こっちの組のヤツらですかね?」
「私も無いです。第一に隆成さんはあまりこっちの関係に私を連れて行ってくれませんから…」
外崎が寂しそうにそう溢した時、ドアの外で話し声が聞こえてきた。
中瀬の指示で部屋の奥へと三人で素早く移動すると、 祐羽を真ん中にしてふたりが守るように左右から挟む。
それと同時に鍵がガチャリと開く音がして、三人はぎゅっと体を寄せ合いそちらに視線を向けた。
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