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「外崎と、九条会長のところの中瀬さん…それから月ヶ瀬さんが…拉致、されました」 その言葉を聞いた瞬間、ドガッと恐ろしい程の音と衝撃がして車が揺れた。 運転手が驚きつつも何とかハンドルを死守して蛇行した車を慌てて元に戻す。 その衝撃の原因は、九条が運転席を後ろから蹴ったからだった。 恐ろしい程光の無い目で前を見据え、九条はドス黒いオーラを流していた。 「…俺の聞き間違いか?」 九条の声に城崎の顔色は一気に蒼くなり、唇が震えて何も言葉を紡げなくなる。 普段から行動を共にして何度か九条が機嫌を悪くした姿を目にはしているが、眞山さえ初めて見る顔だった。 常にクールで無表情、感情に左右されることの少ない九条が、今は負のオーラを恐ろしいほどに垂れ流している。 眞山でさえ冷たい汗が吹き出たのだ。 全く慣れていない城崎など耐えることなど論外だろう。 運転手を勤める組員も肝を冷やして今すぐこの空間から逃げ出したいに違いない。 眞山は流れ出る冷や汗とは反対に乾いている唇を舐めた。 ヤバい。 相手をどうこうするよりも前に、こっちがヤバい。 ゴクリと唾を飲むと、動揺を隠すようにして九条を見た。 九条は普段は知力で相手と対峙しているものの、裏では力で捩じ伏せている事も事実だ。 世間ではいわゆる経済ヤクザと言われる旭狼会だが、ヤクザはヤクザ。 殺しはしていないが、それなりの事はしている。 その関係だろうか。 「相手に覚えは?」 「い、いえ。坂田達からの報告を受けた限りですが知らない顔だったようで…」 九条の隣に座る紫藤に訊ねられ城崎がすかさず答える。 「下っ端でも使ったか、単にアイツらと面識無かっただけか…」 紫藤が眉間に皺を寄せて腕を組んだ。 「外崎目当てなら、ひとり連れ去ればいいんじゃけぇ…。ってことは、元から三人拉致する計画だったってことか」 となると、これは紫藤組と旭狼会へ明らかに敵対する意思があると示していることを表していた。 「…」 黙ったまま表情を変えない九条を乗せた車は、スピードを上げて目的地へと急ぐのだった。

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