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何も知らない素人の祐羽に話せる内容はない。 もちろん中瀬も別の組織の人間ではあるが、紫藤と九条の仲なので大まかになら伝えられるが。 それとは別に、外崎には詳しく話せない別の理由もあった。 「少し隆成さんが大きく幅を広げてきたのを面白くないと思ってる組が少なからずありますね。かと言ってどこの組だとの確証はありませんが」 外崎は紫藤の秘書という名目だが、身内との会合以外は全くといっていい程に連れて行って貰えていない。 加えて肝心な事は一切教えて貰えず、いざ相手側へ行く算段になっても留守番を言いつけられ自宅で待機ばかりの日常だからだ。 それを中瀬に言うのは、自分があまり紫藤から宛にされてないと、役立たずだと思われていると明かす様でなかなかハッキリとは言えなかった。 外崎としては秘書として右腕として紫藤の役に立ちたいのに、思うようにはいかない。 「それを言ったらうちも同じです。会長は尊敬はもちろんですけど、同じく嫉妬も抱かれ易いので…。紫藤組の問題なら外崎さんだけで十分なのに俺まで拉致されたってことは、人違いとはいえ旭狼会へも関係あるってことか…」 中瀬と外崎の神妙な顔を見ながら、祐羽もこれがヤクザ同士の権利争い等により、その人質として拐われたということは理解した。 「交渉次第とは思うけど、確実に助かる保障はないんだよな…。今は殺しはリスク大きいから滅多にないだろうけど」 「決裂した時もしかしたら私達は帰して貰えないか、キレた相手に暴力は加えられるかもしれませんね」 外崎の話に耳を傾けていた祐羽は、また暴力を振るわれるかもしれない恐ろしさを感じて自然と手の先が震えてしまう。 「あとは私達のせいで隆成さん達が殺されてしまう可能性だって…」 「!!」 外崎の言葉に祐羽は大きく動揺した。 自分だけでなく逆に九条も危ないかもしれないという、それは思いもしなかった。 助けに来てくれると信じて疑わなかったが、よく考えれば相手は普通の会社員ではない。 仕事の取り引き相手との交渉が上手くいかなくても命は大丈夫だが、これは違うのだ。 死…、死ぬの? 「下手すると俺達も会長達も無事では済まない。何とか逃げられたら一番だけど…」 九条さんが、もしかしたら死ぬかもしれない? 祐羽の頭の中は一気にその事で支配されてしまう。

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