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祐羽の視界は男の体で遮られ、二人の声しか届かなかった。
顔さえ見ないまま離れさせられてしまった。
ひ、ひとり…。
祐羽は途端に襲ってきた不安に顔を曇らせる。
「トイレは向こうだ」
ふたりから離れる不安は尋常じゃない。
「さっさと行け!!」
「あっ!」
動かない祐羽に男は苛ついた様に背中をドンッと乱暴に押してきた。
華奢な祐羽は前のめりに転けそうになるが、何とか体勢を整えると縮こまりながらトイレへと向かって歩き始めた。
小突かれたのと甦った恐怖のせいで我慢していた尿意が戻って来た。
怖い…早く終わらせて戻ろう。
そう思いながら祐羽が足早に進み始めた時だった。
「おいっ!何してんだ!?」
「!!」
大きく恫喝するような聞き覚えのある声に、祐羽の心臓は嫌な音を鳴らした。
足がすくんで床へと張り付いたかの様に動かなくなってしまう。
あの怖い人だ…!
ドカドカと近づいて来る音がして、背後に現れた加藤が「何してんだ」ともう一度訊いてきた。
「コイツをトイレに連れて行くところです」
「あ?トイレだと?」
そう言うなり加藤がニュっと祐羽の顔を横から覗き込んだ。
思わず悲鳴を飲み込んだ祐羽に、加藤が次の瞬間ニィィ…ッと嫌な顔をして嗤った。
祐羽は硬直したまま視線だけが游ぐ。
トイレに早く行きたいのに怖くて体が言うことをきかないし、この場から逃げ出したいのに逃げられなくて、もうパニック状態になる。
そんな祐羽の耳に最悪な提案がなされた。
「お前は戻っていいぞ。コイツは俺が連れて行く」
「!?」
思わず加藤を見てしまう。
「俺もしょんべん行きてぇからよ」
「じゃぁお願いします」
「!!」
嘘…。
部下の男の返答に祐羽は絶望を感じて視線を落とした。
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