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怒りと冷静
数時間前。
紫藤組事務所内は過去最高潮の緊張に包まれていた。
詳いことは知らされず集められた組員達は、室内で頬を腫らし端に直立不動で居る同僚にまず驚いた。
何事かと疑問に思った様子だったが、それも直ぐに眞山からの説明で理解する。
紫藤組の高嶺の華であり女神、そして数多の組長からも男ながら恋慕される程の存在である外崎。
そして裏社会で恐ろしい程の実力を発揮し注目される男・旭狼会会長である九条の極々親しい身内である二名を含めて三名が拉致されたともなれば一大事である。
下手をすれば抗争寸前の様相を呈していた。
そうなれば無事では済まないことは誰もが理解していた。
それを阻止するには三人を無事に連れ戻し、元凶を叩くしかない。
紫藤組、旭狼会共に拉致された三人の画像はプリントアウトされ数枚が回される。
「写真撮るんじゃねぇぞ、画像は残すな。それ見て今すぐ顔を覚えろ」
眞山の言葉に組員達は、お互いの関係者の顔を覚える為に写真を注視した。
画像に写る楽しそうに笑う三人は、今日の夕方までは旅行を満喫していただけの何も罪の無い人間だ。
中瀬は組員といっても眞山が特別に専用で使っているだけであるし、外崎は紫藤の秘書という名を与えるだけで、ほぼ組には関係させていない。
そして祐羽に至っては普通の高校生で、一般人である。
わざわざ狙って来たということは、紫藤と九条の弱点と知っての凶行だろう。
自分ならまだしも、弱い立場の人間を狙った相手に九条と紫藤の怒りは高まっていくばかりだ。
その沸々とした怒りのオーラは、組員達が唾を飲むことさえ躊躇させる程に暗く重かった。
どこの命知らずがこんな大博打を打ったのか。
見るともなしに床を見ていた九条が口から煙草の煙を吐いた。
「……」
それから煙草を揉み潰し立ち上がると、壁に掛けてあった日本刀を手にした。
眞山と紫藤以外が大きく動揺する中、九条は刀で目の前のテーブルを切りつけた。
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