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祐羽達が拐われた場所は裏路地で、しかもそこに行くには何ルートもある。
その為、防犯カメラの無い場所から幾らでも行くことが出来るせいで、車両の特定が難しかった。
スマホを胸ポケットへ仕舞いながら、思い出したのは最後に別れた時の自分を見送る祐羽の顔で…。
九条は黙って紫藤に目配せで済ませると、事務所を後にした。
ホテルに戻った九条は眞山に部屋の前で別れドアを閉める。
「…」
部屋の静けさがやけに気になる。
『九条さん、おかえりなさい!』
そう駆け寄って来て見上げてくる顔。
『お仕事お疲れ様でした』
そう言って笑顔の祐羽にキスを落とす。
ここに居ない祐羽の姿が自分の周りにつきまとう。
ネクタイを解きソファへと座り込み天を仰ぐ。
目を閉じて思うことは祐羽のことばかり。
今隣に温もりが無い虚無感。
一体誰が祐羽を連れ去ったのか。
今頃、祐羽は何処でどうしているのか。
無事でいるのか。
もし万が一のことがあれば…。
もう既に許すつもりは一切無いが。
暫くそうしていた九条は立ち上がると浴室へ向かった。
シャワーを浴び、ベッドへ腰掛ける。
「…」
何故、側から離してしまったのか募る後悔。
今まで後悔なんてしたことのない九条が、生まれて初めて心の底から後悔していた。
本当ならば、シャワーを浴び終えてベッド腰かけた自分を祐羽がベッドのシーツの中から恥ずかしそうに顔を出して見ていたに違いない。
誰がどうなろうと関係なく生きてきた自分は、今はもういない。
祐羽が愛しくて仕方ないのだ。
祐羽が居ない今夜は眠れそうにない。
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