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中瀬はひとりで頑張っているのだから、自分も同じく頑張らねばと誓う。
決して負けまいとして、祐羽は憎い加藤を精一杯睨んだ。
そんな祐羽の睨みなど気がつかない加藤は、横柄な態度をそのままに外崎のきつい視線を軽く受け流しながら話を続ける。
「お陰で留守を任された俺様は暇になっちまったってワケよ」
そう言った加藤の後ろで別の男が笑う。
「嘘ばっかり。加藤さん、自分から見張り役に立候補してたじゃないですか」
「おうよ。俺は出世の為に命なんてかけたくないね。生き残ったヤツが最後に勝つんだ。それに…」
加藤がゆっくりと近づいて来ながら「俺には別の仕事があるからよぉ」と、舌なめずりする様な顔で言った。
嫌な予感しかない祐羽と外崎は、ソファから立ち上がると慌てて壁際に逃げた。
どう考えても良くない事が起きようとしているのは明白だった。
「あらら。加藤さんが怖がらせるから」
部下らしき男が笑いながら楽しそうに見ている。
「優しい顔してるつもりだがなぁ」
全く優しい顔でもなんでもない、その胡散臭げな表情と口調は、男の気色の悪さを全面に出していた。
すると隣の外崎が小声で話し掛けてきた。
「祐羽くん、覚えてる?」
「!?」
こんな時にいったい何のことかとチラリと顔を見るが、外崎は真剣な表情を加藤に向けたままだ。
「もしもの時は、ひとりでも逃げるって約束」
それはもちろん覚えている。
覚えているとはいえ、今それを何故言うのか理解できない。
「覚えてます、けど…外崎さん…?」
不思議に思いながら問い掛けるが、外崎は祐羽の肩を抱いたまま加藤から遠ざかる様に逃げる。
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