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近づいてくる車の車内を見ようと目を凝らすが、太陽光にフロントガラスが反射してよく見えない。
どっち?どっちだろう、わかんないよ…!
焦る心にソワソワしつつも、迂闊に前へ出られないもどかしさに祐羽は泣きたくなってくる。
そんな時、漸く見えた車内は運転席に男が乗っていたが、到底ヤクザには見えない。
そればかりか、助手席には優しそうな女性が笑いながら何か話をしているのが見えた。
「あっ!ま、待って…!!」
慌てて飛び出した祐羽だったが、既に車は後ろ姿になっていた。
少し走って追いかけてみたが、気づかれることなく、車はあっという間にカーブを曲がって姿を消してしまった。
「あ…あぁ…、行っちゃった…」
絶望感に祐羽は震える唇でそう呟くと、顔を歪ませた。
涙と汗が混じりぐちゃぐちゃの顔はとても酷くて、誰にも見せられない程だ。
そんな状態も気にならない位に、祐羽は車の消えた先を呆然と見つめていた。
後悔しても、もう遅い。
祐羽は、とぼとぼと俯いたまま歩き出した。
この道を行けばきっと街へと出られると信じて。
しかし、助けを求められた相手を逃してしまったショックは思っていたよりも大きく祐羽の心にのし掛かってきた。
なんでもっと早く出ていかなかったんだろう。
そうしたら今頃、助けて貰えてたかもしれないのに…。
重い足を引摺り歩く祐羽は、そればかりを考えてしまい他が疎かになっていたが、気づける余裕は無かった。
草むらや木の影を使って隠れながらの移動はすっかり頭から無くなり、普通に道路を進んでいく。
そんな祐羽も車の音には敏感で、再び遠くから聴こえてきたエンジン音に足を止めた。
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