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ここで捕まってしまったら無事に帰れる可能性はない。
「フンッ。大人しくしとけバカが」
加藤が悪態をつきながら歩いて近づいてくる。
祐羽はふらつく足を叱咤すると、踵を返し再び無我夢中で走った。
恐怖に脳内がグルグルと回り、目眩を起こしそうになる。
「待てゴラァ!!」
チラッと後ろを振り返れば、加藤がもの凄い形相で走り迫って来る。
怖い!怖い!助けて…っ!!
「このクソがっ…!!」
声が真後ろに聞こえたと思った瞬間、肩を鷲掴まれ、祐羽は加藤の腕の中に捕らえられていた。
「嫌だ!やめて!!離せっ!!」
「うるせぇ、この野郎!!黙れっ、逆らうんじゃねぇッ!!」
く、苦しぃ…っ。
力の加減を知らない野蛮な男に締め付けられる痛みは尋常ではなく、そんな苦痛に歪む祐羽の顔を見ながら加藤が恫喝してくる。
「煩わせやがって!!いいか?!これ以上逆うんじゃねぇ、分かったな?!あっ!?」
その言葉に嫌だと小さく顔を振ると、祐羽の華奢な顎を大きな手で掴み加藤が力を加えて再度言い放つ。
「逆らうんじゃねぇぞ!!」
加藤のタバコと体臭の混ざった凶悪な臭いに暑さと恐怖も加わって、もう祐羽の思考は停止しかけていた。
普段あまり汗をかかない祐羽の全身から尋常ではない汗が流れ落ちていく。
「…ぐ…うっ…」
涙で目の前が揺らぎ、息苦しさで意識が霞んでいく。
抵抗する体力も気力も地に落ち、声もなく泣きながら祐羽は顔を歪め目を閉じた。
「ギャアァァァァーーーッッッ!!!」
しかし次の瞬間、加藤の尋常ではない悲鳴が辺りに響き渡った。
驚きに目を開いた祐羽を大きく暖かな腕が、力強くその胸へと抱き寄せた。
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